BAKE FIRST

パン作りに関する疑問やレシピ、お役立ち情報を掲載していきます。初心者も、ステップアップしたい方も必見!

グルテンフリーにダイエット効果は無い!?グルテンフリーにまつわる嘘・誤解・真実について

はじめに

グルテンフリーダイエット、グルテン不耐性、セリアック病、リーキーガット症候群など、近年小麦粉にまつわる印象の悪い情報が一気に増えてきている気がします。

今まで数年間は、自分がパン職人といういわばグルテンが商売道具と言っても良い人間であったために、パン業界の行く末に不安を灯す情報から目を背けてきていました。

しかし、いざ自分が小麦を避けなければならない当事者になりかけて、

「もう目を背けてられないな…」

と腹をくくってグルテンにまつわる健康・医学情報を調べていくうちに、世の中におけるグルテンに対する知識・理解がまるで無く、中には(真偽はわからないが)医者を自称しているインフルエンサーが発信する情報ですらあり得ない誤解が含まれていたりしている現実を目の当たりにしました。

それは、いわゆる”グルテン賛成派”と”グルテン反対派”のような、二極化した意見・主張のどちらにも嘘や誤解にまみれていました。

正直、クソみたいな情報が悪気なく垂れ流されている現状に強い憤りを覚えたと同時に、グルテンに関して悩んでいる人にとってはこれほど何を信じればいいかわからず苦しい状況は無いなと感じました。

なので今回は、グルテンというものについて普通の人より詳しいパン職人である自分、また小麦粉を避けなければならない当事者になりかけた自分として、賛成派と反対派のどちらでもない中立的な立場からこの話題に関して巷にあふれている嘘と誤解について言及させてください。

そもそもグルテンとは何か?

正体を知らずしてグルテンを語るな

まず、グルテンフリーだのグルテン不耐性だのグルテン関連の話をする前に、そもそもグルテンとは一体何なのか、その正体を正しく認識しておく必要があります。

正直言って医療従事者を自称して情報発信をしている人ですら、グルテンを正しく認識できていない印象があります。そんな現状ですから当然あふれる情報の多くはグルテンについて理解が浅いものばかりです。

なので、「そんなこと知ってるよ」と思う人も一度しっかり認識を見直すべきです。

グルテン=グリアジン+グルテニン+水

パン生地

「グルテン=小麦粉に含まれているたんぱく質」という解釈は精度が悪いです。

完全に間違いと断言するわけではないけど、100点満点とも言えない解答です。

本来は小麦粉に含まれる主要たんぱく質である”グリアジン”と”グルテニン”に水を加えることで結合し形成されるのがグルテンです。

グリアジンは粘性つまり粘り気や伸び、グルテニンは弾性つまり弾力やコシの性質があり、グルテンはこの二つの性質を併せ持つたんぱく質結合体です。

そのためグルテンは弾力がありながらも良く伸びる特異な性質を持ち、そのおかげでパン生地は酵母菌が発生させる炭酸ガスを大量に保持しながら膨らむことができたり、色々な形に成型することが可能となっています。

 

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小麦粉以外の穀物粉にグルテンは含まれるのか?

小麦粉

自分で書いておきながらあえて指摘しますが、上記のようにそもそも小麦粉にグルテンが含まれているのではなく、最初はグリアジンとグルテニンという形で含まれているため、正確に言えば「小麦粉にグルテンが含まれているのではなく、小麦粉にグリアジンとグルテニンが含まれているため水を加えるとグルテンになる」ということです。

なのでこの見出しを正しく言い換えると「小麦粉以外の穀物粉でグルテンは形成されるのか?」ですね。

本題に戻りましょう。結論から言えば小麦粉以外ーオートミール粉、米粉、そば粉などーではグルテンは形成されません。

グルテリンとグルテニンの違い、プロラミンとグリアジンの違い

グルテン関係の情報を漁っているとこれらの用語が煩雑に使用されており、「小麦粉にはグルテニンとプロラミンが含まれており」とか「大麦にはグルテリンが含まれており」と似た用語や違う言い回しが多くて何が正しいのか、それとも入力ミスなのかよくわからないものが多いですね。

これに関して理解を整理できる情報にたどりついたのでご紹介します。

グルテリン・プロラミンはたんぱく質の分類グループを指す用語で、そのほかにはアルブミン・グロブリン・ヒストン・プロタミンなどのグループがあります。

グルテリン・プロラミンは植物特有、ヒストン・プロタミンは動物特有のたんぱく質グループとして現状認識されています。

そして、これらのたんぱく質の分類グループの中に様々な”たんぱく質”そのものが何種類もあるわけです。

(例)

グループ「グルテリン」…グルテニン(小麦)、オリゼニン(米)

グループ「プロラミン」…グリアジン(小麦)、ホルデイン(大麦)、ツェイン(とうもろこし)

小麦アレルギーやセリアック病などはグルテンではなくグリアジンに反応するケースがほとんど

小麦アレルギーやセリアック病の人がアレルギー症状を避けるために導入される”グルテンフリー食”ですが、そもそもこれらのアレルギーに反応しているのはグルテンではなく厳密にはグリアジンに反応しているケースがほとんどのようです。一方のグルテニンは小麦アレルギー・セリアック病にほとんど影響はないようです。

そのためグルテンフリーという言葉はあまり正確に的を射ていないように私は思います。この言葉が広まったせいでグルテンやアレルギーに関する世間一般の認識精度の低さにつながったのではとも感じてしまいます。どうせなら「グリアジンフリー」とでも言っておけばまだ良かったのではないか…というのが個人的な意見です。

もちろん、グルテンフリーという表現自体は間違ってはいないのですが。

(ただしこの手の食品医学分野の研究が進んでまだ日が浅く、100%の断言が出来る精度のものが少ないのでここでもあえて”ほとんど”と表現しています)

 

グルテンを形成しないのにグルテンフリーに分類されないものたち

大麦はなんでグルテンを形成しないのにグルテンフリーに分類されないのか?

大麦

本来、大麦にはグルテニンもグリアジンも含まれておらず、小麦粉と同様にして水で練ってもグルテンが形成されずパン生地のようにはなりません。大麦の場合はホルデニン・ホルデインというたんぱく質が含まれていますが、これはそれぞれ分類上はグルテリン・プロラミンに分類されます。

製造上の事実から見ると一見グルテンフリーのように見えますが、基本的に大麦はライ麦同様にグルテンフリーから除外されていますね。

これには「交差抗原性」という人間の免疫性質が影響しています。

大麦に含まれるたんぱく質の一部が小麦に含まれるたんぱく質と類似した分子構造をしているために、小麦アレルギーの症状を引き起こしてしまうことがあるようです。

小麦アレルギーで症状を引き起こすのはほとんどがグリアジンなのだから、おそらく大麦においては同じプロラミンに分類されるホルデインがグリアジンと類似して症状の原因になるのではないかと思います。

まれに小麦アレルギーの人がとうもろこしを食べると症状を引き起こすケースがあると聞いたことがありますが、とうもろこしにもプロラミンに属するツェインというたんぱく質が含まれています。この場合もおそらくツェインが反応していると考えると自然でしょう。

ただしこれには個人差があり、必ずしも小麦アレルギーだからといって大麦で反応が出るわけでもないとのこと。

なので、一旦は小麦アレルギーの人は避ける必要がありそうですが、少量から試してみて問題なく食べられることが分かれば無理に避ける必要はないでしょう。

ライ麦はグルテンを形成しない?グリアジンは含まれるのか?

ライ麦パン

ライ麦粉に関しては諸説ありますが、こちらもほとんどグルテンは形成されないと言っていいでしょう。ライ麦にはプロラミンに分類されるセカリンというたんぱく質が含まれています。グリアジンとグルテニンは含まれていないため、水で練っても粘り気のある泥団子のようにしかならず、引っ張っても弾力が無くちぎれてしまいます。

ライ麦粉はドイツパンで多様される独特な香ばしさのある粉ですが、小麦粉を一切使わないライ麦粉100%のパンが、皆さんが一般的に想像しているふっくらとしたパンではなくずっしり重たく目が詰まったパンである理由はここにあります。

なので、一見するとグルテンフリーにしか見えませんが、事実上ライ麦はグルテンフリーに分類されません

こちらも上記で述べた「交差抗原性」により、ライ麦に含まれるたんぱく質の一部(おそらくセカリン)が小麦たんぱく質(おそらくグリアジン)と性質が類似しているためにアレルギー反応が出るケースが考えられるため、グルテンフリーには分類されていないようです。

ライ麦とグルテンフリーに関する情報を探しているとまれに「ライ麦はグルテンを形成する」とか「ライ麦にはグルテンが含まれる」と断言されているものを見かけますが、これは厳密に言えば誤解です。

厳密に言わなければ正しいとも言えます。

これは、市販されているライ麦粉にはまれに「原材料名:ライ麦・小麦」と表示されているものがあるからです。

つなぎを補うためにあえて少量ブレンドしているのか、あるいは収穫工程や製粉工程において小麦が混入する確率が高いためにそのように表示しているのかは定かではありませんが、どちらにしろ「ライ麦粉」として販売されているものの中には小麦粉が微量混入していることがあるというのは事実のようです。

そうでなくともライ麦粉を扱っているパン屋さんでは基本的に同一製造所で小麦粉も扱っていることがほとんどです。パン製造過程において小麦が混入することは必ずあるでしょう。

小麦が微量に混入していれば、その小麦成分で微量にグルテンが含まれると言っても間違いではないため、厳密に言わなければ正しいと言えるでしょう。(私からすればマイナス70点ですが)

なので、こちらも大麦同様に小麦アレルギーの人は個人差で反応が出る人もいれば出ない人もいるようなので、少量から試していく必要がありそうです。

オートミール(オーツ麦)がグルテンフリーに分類されないのはなぜか?

オーツ麦

オートミール(オーツ麦、オート麦、燕麦とも言う)はそれ単体ではグルテンフリーと言って差し支えないでしょう。

オートミール粉を水で練っても、グルテニンとグリアジンが含まれていないためグルテンが形成されず、パン生地のようにはなりません。

そういう意味ではグルテンフリーと言えますし、小麦アレルギーの原因であるグリアジンも含まれていません。

その上、オートミールに含まれているたんぱく質のうち、プロラミンに分類される「アベニン」はたんぱく質全体の1割程度しか占めません。

小麦、大麦、ライ麦ではたんぱく質全体のうちプロラミンが多くて5割を占める場合もあることに比べると、オートミールはそれらの穀物に比べてプロラミンが少ないと言えます。

(オートミールは「グロブリン」という分類のたんぱく質が全体の8割を占めるやや特異な穀物です。小麦や大麦、ライ麦では1割前後しかグロブリン分類のたんぱく質を含みません。)

このような点から見ても、小麦とはその成分的特徴がだいぶ異なるため、小麦アレルギーの「交差抗原性」が現れにくいのではないかと私は考えます。

しかし、プロラミンがごく少量とはいえゼロではないため、非常に敏感な反応を示す人ではオートミールでも小麦アレルギー様の症状を発現する可能性もゼロとは言い切れません。

その上、ここがオートミールをグルテンフリーから除外される大きな理由ですが、オートミールの生産地では主に小麦も同じ隣接した畑で栽培されていることが多いようです。

恐らく区画分けはしていると思いますが、隣接部分では種まきの段階からオートミールの区画に小麦が紛れてしまうのでしょう。

その上、収穫に使用する機材での混入もあるでしょうし、さらにその先の加工工程・貯蔵工程などで同一工場にて作業される場合に混入する経路はありそうです。

そういった経緯があるため、オートミールには小麦そのものが混入している可能性が高いことからグルテンフリーとは謳われていないわけです。

米粉にはプロラミンがほとんど含まれていない

米粉クッキー

ここまで、グルテンフリーに見えてグルテンフリーに分類されない穀物について解説してきましたが、ついでなのでグルテンフリーの代表格である米粉についても解説しておきます。

小麦アレルギーや、小麦アレルギーによるその他穀物での交差抗原性の話はよく聞きますが、それに比べてお米アレルギーはそれほど多くは聞かないですよね。お米アレルギー自体は実際にありますが。

米粉はグリアジンもグルテニンも含まないため、水で練っても当然パン生地のようにはなりません。パン生地のように弾力と伸びを共存させるには小麦グルテンパウダーを別途添加する必要があります。

この場合、ライ麦を水で練った時とは異なり、粘り気は無いが独特の硬さを感じます。

米も小麦や大麦などの穀物とはその成分的組成が大きく異なり、米に含まれるたんぱく質のうち多くて9割をグルテリン分類の「オリゼニン」が占めています

プロラミン分類のたんぱく質は全体の1割にも満たないごく少量です。

その上、同じイネ科とはいえ麦と米ではその先の分類も異なるでしょうから、そんなごく少量のプロラミンですら小麦のグリアジンとの類似性はそこまで濃くないのではないかと私は考えています。

さらに、小麦と米の栽培方法がまるで違うのは皆さんも良くご存じかと思います。そのため米粉は栽培上における小麦の混入もありませんし、製粉上の工程でも小麦と混入することはありません。

そういった様々な要因から米粉はグルテンフリーに分類されていると言えます。

※お米アレルギーに関しては通常のアレルギーとは異なる特異な仕組みがあるようですので、この件については別の記事で触れていきたいと思います。

paopao-bakefirst.hateblo.jp

 

「グルテンフリー食」本来の目的を履き違えて”意識高い系”の馬鹿野郎になっていませんか?

グルテンフリー食の本来の目的とは

ここまでの解説で「グルテン=小麦に含まれるたんぱく質(グルテニンとグリアジン)に水を加えて練ることで形成される結合体」ということはお分かりいただけたかと思います。

要するに小麦たんぱくの塊というわけです。

そして、その中のグリアジンが小麦アレルギーやセリアック病の原因であるということもわかりましたね。

つまり、グルテンフリー食の本来の目的とは、グリアジンによってアレルギー症状を発現してしまう人のために、グリアジン(更にはグリアジンと類似性の高いその他プロラミン分類のたんぱく質)を含まない食事をすることでアレルギー症状を避けることにあります。

小麦アレルギーやセリアック病のみならず、諸説ありますが「グルテン不耐性」や「遅延型アレルギー」によるグリアジン由来の症状を避けることも目的に含まれると言っていいでしょう。

※グルテン不耐性・遅延型アレルギーに関しては現状肯定的・否定的と二極化する様々な情報が溢れていますが、これに関してはまた長くなるので別の記事で述べたいと思います。

”グルテンフリーダイエット”という誤解だらけのカオスな用語について

白米

グルテンフリー食の本来の目的を理解すれば、「グルテンフリーダイエット」という言葉に違和感を覚えるのではないでしょうか?

そもそもグルテンフリー食というのはダイエットの目的で施行されるものではないのです。

あらゆる食事の中からグリアジンを含む食品を抜いて、別のものに置き換えてグリアジン由来のアレルギーを避けることが本来のグルテンフリー食というものです。

なので、極論言ってしまえば1日3食をパンのみで生活していた人が、1日3食を白米のみに置き換えることもグルテンフリーと言えるのです。

そこまで極端なことを言わずとも、夕飯で家族が主菜として小麦粉の衣が絡んだ鶏もも肉のから揚げを4つ食べている横で、自分は唐揚げを食べずに代わりにより多くの白米を食べることで空腹を満たすこともグルテンフリーを実践していることになってしまいます。

では、このような食事にダイエット効果があるかと言えば、ほぼ間違いなく余計に太りますよね。

(たとえ話として、もし小麦からたんぱく質を完全除去する技術が世の中にあれば、その技術をつかってたんぱく質除去小麦粉(小麦でんぷん)なるものが生まれて、それも立派なグルテンフリーということになります。もちろんそんな製品は存在しないでしょうが、こんなものは糖質の塊ですからこれを食べればダイエットになるかと言えばむしろ逆ですね。)

このように、グルテンフリーという行為そのものにはダイエット効果などないのです。

逆に、セリアック病の人は小麦製品を食べると下痢になり、消化吸収に支障が出てむしろ体重が減少する傾向があるくらいです。

ではなぜこのようなおかしな用語が出回ってしまったのでしょうか?

「グルテンフリー=糖質制限」だと誤解してしまう人

ペペロンチーノ

グルテンフリーで目的とされるグリアジンを避ける食事法は、つまりはグリアジンを含む小麦粉製品や類似したプロラミン類のたんぱく質を含む穀物製品を避けることに繋がります。

そうすると毎日のように多量のパンやパスタ、ラーメンなどを食べていた人はそれらすべてを別のものに置き換えることになります

月曜日はパン、火曜日はパスタ、水曜日はラーメン…と同じ小麦食品でも日を変え品を変えとやっていれば飽きませんよね。その上、それ単体をメインの食べ物として一食済ませてしまうこともできてしまいます。でも、すべてを置き換える必要が出てきたときに、一番最初に思い浮かぶのはお米への置き換えですね。

ですが、白米はそれ単体で大量に飽きずに食べられる人はかなりの少数派のはずです。多くはそこにおかずを欲するようになるはずです。

これは私の個人的な感覚ですが、ペペロンチーノのように油とにんにくと鷹の爪というシンプルすぎる調理法でもそれ単体で1回の食事として満足できてしまうのはパスタならではですよね。これと同じことを米でやったらと考えると、おそらくそれ単体では満足できず、やっぱり何かもう一品、できればがっつりしたお肉や野菜が食べたくなってしまいます。

そうなってくると、必然的に一回の食事における糖質量が減って、その他の栄養とのバランスがより良い方向に変わってきそうですよね。

このようなケースの場合、本人はグルテンフリーをやっているつもりが結果的には糖質制限に繋がるため、それで体重を落とせた人がこぞって「グルテンフリーで痩せた!」と主張し始めたのでしょう。

それに、世の中には小麦製品であふれかえっています。お総菜コーナーに行けばパン粉を絡めて揚げたものなどもたくさんあり、小麦抜きの食事をしようとすると食べられるものが限られてきてしまいます。実際私も「小麦を避けると食べるもの全然ないなぁ」という思いを味わい、それまで食べていた小麦製品の分、空腹を満たすためには必然的に肉や卵、豆腐や野菜といったものを食べるほかありませんでした。

痩せた原因はあくまで毎日の糖質摂取量が減ったことであってグリアジンを避けたこととは何も関係がないのにも関わらず、グルテンの正体をろくに知らない人が「グルテンフリーの実施→痩せた→グルテンは肥満の原因」と短絡的に誤解してその考えを発信してしまったのでしょう。その中には影響力のある人もいたことでしょう。

残念ながら、この手の分野の研究はまだまだ日が浅いどころか、そもそも治験のように徹底的な管理下で人を拘束して行える研究も現実的に難しく、非人道的といえる実験は人にはできずマウスなど他の動物で実験するほかないために、本当に信頼できて力のある研究結果が少ないのも事実です。そうした現状もあって、間違った情報を即座に塗り替える力が無く誤解が広まってしまうのでしょう。

 

医療従事者ですら解釈を見誤る「グルテンフリー食の弊害」という誤解

「グルテンフリーダイエットをすると冠動脈疾患リスクが高まる」というカオスを極めすぎた超パワーワード

フォロワー数も多くそれなりに影響力のありそうな、医療従事者を名乗る人が発信していた情報の中に、「グルテンフリーダイエットをすると冠動脈疾患のリスクが高まる研究結果があるんですよ」という文言がありました。

結論として安易にグルテンフリー食を実施しないほうがいいとの言い分でしたが、これには突っ込みどころが満載です。

そもそもグルテンフリーダイエットという言葉自体がおかしいことは先程も解説したとおりです、それを平然と使用すること自体がグルテンに対する知識の浅さが見えますし、知った上で使っているならまずその誤解を解いて正しい情報を皆に伝えるのが医療従事者たるものの本来あるべき姿なのではないでしょうか?医療従事者のみならず、食品に関わる人間であっても同様の責任があると私は考えています。(そこは個人の価値観の問題もあるので、この言い方は少し気分を害される方がおられるかもしれませんが)

百歩譲って、では「グルテンフリー食をすると冠動脈疾患リスクが高まるから安易に実施しないでね」という主張に変換して捉えるとしましょう。

ここでも大きな問題があります。

この言い分は言い換えると「グリアジン(と、その他類似性の高いプロラミン類のたんぱく質も含む)の摂取をやめると冠動脈疾患リスクが高まるから、グリアジンを食べ続けないといけない」ということにもなりますね。

もしこれが本当だとしたら、GHQによるコッペパンの配給が行われる以前の日本(特に米、魚、野菜、豆などから成る日本食を主に食べていたであろう時代)の人々は多くが心筋梗塞などの冠動脈疾患により苦しみ命を落としていたことになってしまいますね。小麦文化が広まって心筋梗塞の患者数は減ったでしょうか?そのようには見えませんね。

冠動脈疾患と全粒穀物の関係性から見る正しい解釈

全粒粉パン

そもそも冠動脈疾患の原因は、あらゆる要因による心筋への酸素供給不足や血流の途絶えが原因です。

実は、冠動脈疾患を予防する効果がある食品として”全粒穀物”が挙げられます

全粒穀物とは、白米や白い小麦粉のような精白した穀物ではなく、表皮や胚芽の部分も余すところなくまるごと使う穀物のことを指します。小麦の場合は全粒粉、ライ麦の場合はライ麦全粒粉です。

そのため全粒粉食パンやライ麦パンなどを日常的に摂取している人は、そこに含まれる豊富なビタミン・ミネラル・食物繊維から冠動脈疾患をはじめ様々な健康被害リスクを軽減していると言えます。

そのような人が急にそれらの食品の摂取をやめて、白米に置き換えたらどうなるでしょうか?今まで冠動脈疾患リスクを減らしていた食品が一つ無くなるわけですから、そのリスクが増えるのは容易に想像できます。

残念ながら「グルテンフリーダイエットの実施で冠動脈疾患が高まる」という研究において、全粒穀物の摂取をやめた場合に代わりに置き換える食品は何かということについては言及されていません。極論もしかしたらホイップクリームを代わりに食べている可能性だってあるわけです、それだって立派なグルテンフリーですから。

また、今まで鶏もも肉の唐揚げやトンカツから豊富なたんぱく質やビタミンを摂取していた人が、その小麦を避けるために野菜に置き換えてしまっているかもしれません。色々面倒くさくなってチョコクリスピーでお腹を満たしているかもしれません。(チョコクリスピーはお米を原料にしたシリアルです)

世の中にあふれる調理済みのものは、小麦が使われていることが非常に多く、私自身小麦を避けようとすると面倒臭さを味わいました。そうなると人は楽な方に逃げがちですから、ラクで栄養バランスの悪い食生活になってしまってもおかしくありません。

こういう背景もあるから、「グルテンフリーダイエットを安易に実施すると、全粒穀物など冠動脈疾患のリスクを減らす食品の摂取が減ることや、グルテンフリー実施前に保っていた理想的な栄養バランスを崩すことにもつながりかねない」ということが言えるわけです。これが本来するべき解釈だったのです。

この研究結果から読み取れることはそういうことなのです。決して「グリアジンの摂取=冠動脈疾患リスクを減らす」という解釈にはつながらないのです。(仮にグリアジンにそのような効果が実はあったとしても、この研究からは断言不可能なのです。多分無いだろうけど、あったら教えてほしい)

でも、小麦製品以外にも冠動脈疾患を予防する効果が期待できる食品はいっぱいあります。要はグルテンフリー実施者の知識量と努力量次第なのです。

”食品栄養学の研究による科学的根拠”に根拠が無い場合があるという社会問題

公表されている研究結果論文の結論だけを鵜呑みにして、その背景がどのようなものなのかをしっかり読み取る力が無いと、このように間違った解釈をしてしまったり信頼度の低い情報に踊らされてしまうことがあります。

特に食品栄養学の研究においては、食品業界が後援金を出資してその企業に不利益な研究結果が出ないように忖度が働いている恐れがあるなど、様々な問題が指摘されています。

実際、食の安全において今まで数多くの”手のひら返し”があったことは周知の事実でしょう。昨日まで「○○は体に悪い!△△は体に良い!」と言われていたものが、次の日にはこっそりと「やっぱり逆でした」となったケースはとても多いですね。

今の世の中、色々進歩してどんなことでも解明されているように見えて実はわからないことだらけ、そんな状況ですから間違ってしまうことは仕方ないことだと思います。こんな偉そうなことを言っている私でも、ついこの間までは錯綜する情報に迷い混乱し不安を抱いていましたから。

 

あとがき

今回この記事で紹介した内容は、思考停止した人々による不確かな情報錯綜の現状に憤りを感じた私が、自分の頭で考えて解釈したうえで信頼できると判断した内容です。

そこには個人的な価値観も少なからず含まれてしまうことは避けられないので、ここにある内容が全て100%正しいと断言することはできません。この記事を何の考えもなしに鵜呑みにしたせいでなにか不利益が被ったとしてもその責任はとれません。あくまでご自身の頭でしっかりと咀嚼した上で、納得ができる内容のみご参考ください。

今回私が皆さんに一番お伝えしたいことは、情報化社会とよばれる今の世の中には、本当に正しいと言える情報ばかりではなく、特に栄養医学の分野はまだまだすべてを信用しきるには早いということ。そして間違った古い情報を未だに捨てられず、知識のアップデートが追いついていない人もたくさんいるということ。

知らず知らずのうちに騙されて損をすることのないよう、どうかご自分の頭で目の前の情報を吟味するクセをつけていただけたら幸いです。

特に、医療に携わる者だけでなく、食に携わる者も同様に栄養医学についての知識を身につけようとする意識を持ち、消費者に対して正しい”食育”ができるようになっていけたら、どんなに素晴らしいか…そう思いませんか?