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パン作りに関する疑問やレシピ、お役立ち情報を掲載していきます。初心者も、ステップアップしたい方も必見!

小麦のFODMAP性と小麦グルテン使用の米粉パンの有用性について

体の臓器の中でもとりわけ腸は第二の脳と呼ばれるほど、心理的ストレスや乱れた食生活など様々な負担に対して繊細に反応することが近年の研究で判明されつつありますね。

そして、腸内フローラの研究が進むにつれてどうやら人それぞれ体に合う食べ物と合わない食べ物がまるで異なることがわかってきています。

ここでは小麦のFODMAP性と小麦グルテン使用の米粉パンの有用性について述べていきます。

FODMAPとは?

  • F…Fermentable(フェルメンタブル)「発酵性の」
  • O…Oligosaccharides(オリゴ-サッカライズ)「オリゴ糖(フルクタン・ガラクトオリゴ糖)」
  • D…Disaccharides(ダイ-サッカライズ)「二糖類(ラクトース)」
  • M…Monosaccharides(モノ-サッカライズ)「単糖類(フルクトース)」
  • A…And
  • P…Polyols(ポリオールズ)「糖アルコール(ポリオール)」

これらの頭文字をとってFODMAP(フォドマップ)と呼ぶ、いわばお腹の中で発酵する性質を持つ糖質を意味します。

糖分はそれ自体が元々酵母菌など多種多様な微生物のエサとなることに変わりないのですが、本来は小腸で早々に吸収されるためあまり長い時間腸内を漂うことはありません。ですがこれらの発酵性の糖質と呼ばれる糖類は、人によって(または全ての人が)消化できなかったり吸収しづらい場合があることが近年の研究によって明らかになりつつあります。

未消化・未吸収の糖質が腸内を長時間漂うことで、

  • 糖分の浸透圧作用で腸壁から腸内へ水分が引き込まれ下痢になる
  • 糖質を養分として腸内細菌が発酵し、ガスが発生し腹部膨張感腹痛を起こす
  • 発酵が進んで腸内が酸性に傾きすぎて余計に腸内細菌が活性化したり(酵母菌が弱酸性で活発に炭酸ガスを出すのと似てますね)、腸の動きが悪くなる

といった症状を引き起こし、腸内環境が更に悪化していく恐れが考えられています。

てんさい糖

「てんさい糖にはオリゴ糖が含まれているため整腸作用がある」と聞いたことがある人は多いのではないでしょうか?

しかし近年では、それはあくまで元々腸内環境が健康な人にとっては有用的であるだけで、特に過敏性腸症候群(IBS)を患っている人にとっては症状を悪化させる可能性が高いということがわかっています。(小腸内細菌異常増殖症ーSIBOーも含む)

そのような人たちが摂取するのを避けた方が良いとされるわかりやすい基準として、「高FODMAP食品」が挙げられます。これは、上記の発酵性糖質を多く含む食品という意味です。

逆に、発酵性糖質が少ない食品を「低FODMAP食品」と呼びます。過敏性腸症候群の人は低FODMAP食品を選んで摂取していくことが重要です。

FODMAPについてここでは話題を広げずに、小麦のFODMAP性と米粉パンに関する話題のみ掘り下げて解説していきます。

小麦が高FODMAPと言われる原因である糖質「フルクタン」

糖質を多く含む食品の二大巨頭として知られる小麦と米ですが、このうち小麦は高FODMAP、米は低FODMAPと分類されます。

この二つを分かつ大きな原因として「フルクタン」という糖質が挙げられます。

オリゴ糖の一種ですが、そもそもオリゴ糖は人が元来持っている酵素では消化できない糖質のようです。

これが小麦には豊富に含まれており、逆に米には含まれていないのです。

フルクタンは他にもたまねぎやにんにく、にら、柿、桃といったものにも含まれ、特にたまねぎとにんにくは含有量が多いようです。

人間の個人差は我々が思っているよりはるかに大きい

腸内微生物多様性の個人差による人への影響

まだ研究の浅い分野のため情報も少ないですが、傾向として過敏性腸症候群の人は腸内微生物の多様性に乏しいことが多いようです。

ただ糖をエサにして炭酸ガスとアルコールを放出する酵母菌のような単純な菌だけでなく、腸内微生物は実に様々な働きをする菌たちがいるそうです。

我々の健康維持に有用な様々な栄養素を生産したり、セロトニンやドーパミンといったホルモン系の生産にも関与しているとも言われています。腸内微生物の多様性が各種精神疾患との関与を示唆されているほどです。

腸内には善玉菌と日和見菌と悪玉菌がいて、悪玉菌が活発になるとお腹を壊すというのは良く知られた表現かと思いますが、こんな単純な表現では表しつくせないほど複雑なものなのです。同じ食品を摂取しても、腸内微生物の個人差によって得られる恩恵が上下したり、健康を維持できたり逆に悪化させたりという違いさえ出てくることが示唆されています。

なぜ健康な腸内環境の持ち主は高FODMAP食品を食べても平気なのか

ヨーグルト

いくら個人差があるとはいえ、それだけでは高FODMAP食品を食べていい人と悪い人がいるなんてなかなか納得できませんよね。

一つ目に留まる情報を見つけたので参考程度にご紹介します。

どうやらビフィズス菌にオリゴ糖を分解する能力があるとのことです。元々オリゴ糖は腸内のビフィズス菌にとって有効なエサであることが期待されたことで「整腸作用がある」という認識が広まった背景があります。それがいつの間にか、その理由はわからないけどとりあえず「オリゴ糖=お腹に良い」という短絡的な理解度の人が増えていった印象がありますけど。

これが確実に正しければこう考えられませんか?

元々ビフィズス菌を多種多様に腸内で飼っていた人にとっては、オリゴ糖を適正量与えることでそれらを生き長らえさせ増やし活発にすることができた。それは結果的にフルクタンを含む小麦食品をも腸内で分解する能力を高めることになり、整腸作用に繋がった。(過剰摂取はやはり軟便・下痢に繋がるか)」

元々ビフィズス菌の保菌率が少ない人にとっては、オリゴ糖を(適量と思われる量)摂取しても分解しきれず残留してしまい、残留糖質が腸内に水分を引き込み下痢を起こす。また、それ以外のガスを良く出すタイプの菌のエサになってしまい、腹部不快感に繋がる。(この人にとってはもっと少ない量が適量だったのか、はたまた他の菌勢力が強すぎたか)」

製パン理論を腸内環境に応用した考え方

対糖性インスタントドライイーストの特徴から垣間見る腸内微生物の多様性の重要性

インスタントドライイースト

サフのインスタントドライイーストで、赤ラベルと金ラベルでは酵母菌が持つ酵素の量に違いがあるのをご存じですか?金ラベルは赤ラベルよりもインベルターゼが多いのです。インベルターゼはショ糖(上白糖やグラニュー糖など)を”果糖とブドウ糖”に分解する酵素です。(ちなみに麦芽糖を二つのブドウ糖に分解するのがマルターゼ、赤ラベルはマルターゼの活性が金ラベルより高い)

お砂糖をたくさん入れる菓子パン生地では、糖分の浸透圧作用により酵母菌から水分が脱水されかけて発酵力が低下しますよね。

ですが、金ラベルは対糖性酵母です。もちろん浸透圧に対する耐性が高いという理由もあるでしょう。ですが、砂糖を分解する酵素が通常よりも多いということは、砂糖をエサとして吸収する能力が元々高いから浸透圧によって多少元気がなくなってもプラマイゼロ、という見方もできますよね。

ちなみに菓子パン生地では金ラベルを使用することで赤ラベルよりもイースト使用量を減らすことができますが、逆に砂糖無添加生地(フランスパン生地など)では赤ラベルよりも使用量を増やす必要が出てきます。マルターゼの活性に劣るために、モルトシロップや粉を熟成させて生成した麦芽糖を使う能力が低いからでしょう。

とっても単純な働きをする酵母菌でさえ、メーカーや商品によって分解・発酵能力には差があるのです。

このように、同じメーカーが作る同じ酵母菌でさえ、その性質には大きな違いがあるのですから、腸内微生物の多様性が人間に与える影響はとても大きいのではないでしょうか?

自家製酵母作りの考え方から見る腸内微生物多様性の重要性

自家製酵母

穀物や果物を水に浸して自ら酵母菌を培養して作る自家製酵母種には、実に多種多様な菌が共存しています。

代表的なものが乳酸菌や酢酸菌といったもので、これらはパンの風味をより複雑で奥行きのあるものにします。

反対に、市販のパン酵母(いわゆるイースト)は炭酸ガスを発生させることに長けている酵母菌のみを純粋培養したもの。多種多様な菌が共存する自家製酵母のパン生地とは違い、一種類の酵母菌が圧倒的な勢力を持ちます。

故に、イーストを使ったパンは簡単にすぐ膨らむし、自家製酵母のパンは膨らむのに時間がかかるのです。

 

自家製酵母種を作る過程で、最初に水を加えた初日は全然ガスが発生しないですよね。お砂糖を加えたり酸素を取り込むんだりして、時間経過とともにガス発生が盛んになります。

これは、酵母菌が好む環境を用意してあげることで、早く増殖して元気になってもらいたいからやっているのです。

カビや酪酸菌などパン作りに邪魔な菌が元気になる前に酵母菌の勢力を拡大させる必要があるからです。一つの菌が勢力を拡大すると、その環境下では他の菌はおとなしくなっていき淘汰されていきます

だから、酵母菌が増える前にカビや酪酸菌などその他雑菌が繁殖してしまうと、いくら待っても酵母菌が元気にならずガス発生が無いか少ないままです。

逆に言うと、酵母菌をピンポイントで育て続けるといくら自家製酵母とはいえ、その環境はだんだん酵母菌一強の市販イーストに近づいていくということが言えます。(100%その状態になることはまずありませんが)

また、異なる種類の自家製酵母種をブレンドすると、ヘゲモニー争いというお互いの有効勢力の菌同士が拮抗する現象が起き、しばらく発酵力が弱まるそうです。ゆっくり長時間熟成させたいパン作りでそのような手法を取る職人さんがいるようです。この時、パン生地内部の微生物の多様性は他のどの自家製酵母やイーストで作ったものよりも幅広いものであることは容易に想像できますね。

これ、人間の腸内にも同じことが言えるのではないでしょうか?

偏食が良くないとされる理由はまさに腸内環境の悪化にありそう

偏食による腹痛

偏食、つまり同じようなものばかりを食べ続けたり、同じものを一度に大量に食べる行為。これって自家製酵母種を作るときに酵母菌が好きな砂糖と酸素を与える行動と同じことを自分の腸内微生物に行っていると言えませんか?

例えば他の食べ物は食べずに白いパンだけを毎日食べていたら、その白いパンで誰よりも元気になれる腸内微生物だけを応援することになります。

元々ビフィズス菌の保菌率が少ない人だと、ビフィズス菌よりも保菌率が高くてパンが大好きな発酵力の強い菌が元気になってしまいます

それを毎日続けるほど、元々少なかったビフィズス菌やその他の腸内微生物はその菌の勢力に圧されて次第に淘汰されていきます。

結果としてその腸内環境は、まるで市販のイーストで作った酵母菌一強のパン生地環境に例えられるように思います。

そして逆に、様々な食品を種類多く食べたり、毎日同じにならないようローテーションするような食事は、白いパンが大好きな菌だけでなくその他いろいろな菌を生かすことに繋がり、結果として腸内微生物同志の拮抗が保たれる。先程紹介した自家製酵母種ブレンドによるヘゲモニー争いを利用して発酵力を弱めたパン生地環境に例えられる気がします。

グルテンフリーではない米粉パンの今後の有用性

小麦アレルギー対策には使えない小麦グルテン使用の米粉パンは低FODMAPパンとしての有用性が期待できる

米粉食パン

米粉にはグルテンのもととなるグルテニンとグリアジンが含まれないため、通常のパン生地のように薄く伸ばしたり細長く伸ばしたりふわっと炭酸ガスを大量に保持することはできません。そのように作るには小麦グルテンパウダーを添加する必要があります。

小麦アレルギーは小麦たんぱく質のグリアジンに反応するものがほとんどなので、小麦グルテンパウダーを添加した米粉パンは小麦アレルギー患者に提供することはできません

(グルテンパウダーを添加しない米粉パンもありますが、それらは主にドロドロでパウンドケーキのような生地を型に流し込み発酵させて焼いた食パン形状であったり、オオバコ粉末(食物繊維)など骨格となるものを添加してほんの少しガス保持力を持たせた生地を発酵させて焼いたもので、どちらも通常のパンのようなふんわり感や引きの強さ、独特のもっちり感は再現できません。)

そう考えると、グルテン添加米粉パンには存在意義が無いように思えてしまいますが、過敏性腸症候群の人向けのフルクタンフリーのパンという立ち位置が残されています。

米は小麦と異なりフルクタンを含まない低FODMAP食品です。それは米粉になっても同様です。

小麦グルテンパウダーは小麦からでんぷんを除去して小麦グルテンを抽出したものですので、そこにはでんぷんや糖質の類は含まれません。

ということは、米粉で作ったグルテン添加パンは、限りなくパンに近いおいしさと食感を再現しながらも、低FODMAP食品として食べることのできるパンと言えるのではないでしょうか?

過敏性腸症候群を改善するためには、しばらく高FODMAP食品を避けた食事を1か月以上、長くて半年も実施する必要があります。症状が治まってくれば徐々に高FODMAP食品を試して自分に合うもの合わないものを見極めていくという非常に面倒くさいことをすることになります。

その間、大好きなパンやうどん、ラーメン、パン粉を使ったお惣菜など諸々食べられなくなるのは非常に辛いことですね。

そんな時に美味しい低FODMAPの米粉パンがあったらとてもありがたいのではないでしょうか?

ただし、乳製品やてんさい糖、はちみつといった高FODMAP材料を配合してしまうとその価値が下がってしまいますので、そういう目的でグルテン入り米粉パンを作る場合はこの分野について入念な勉強をするべきだと思います。

米食品も食べ方を間違えると高FODMAPになってしまう

白米

米は低FODMAPだから安心だと思っても、実は落とし穴があります。

野菜の前に白米を食べると血糖値が~…とかそういうのは当たり前のこととして、もう一つ食べ方について注意しなければなりません。

それは、冷えて硬くなった米は一転して消化に悪いということです。

米の主成分であるでんぷんは、炊きたてで高温が保たれている状態では”α-でんぷん”という状態です。α化とは糊化、つまり糊のようになるという意味です。

この時のでんぷんは消化に良いのですが、でんぷんは冷えると老化(β化)する性質があります。β-でんぷんは非常に消化が悪いです。炊く前の生米を口に含んでも全く口溶けしないですよね?それは消化が悪いからです。

消化に悪いでんぷんを摂取すれば、完全にブドウ糖まで分解できない中途半端な状態で大腸まで進むことになりかねません。これではせっかくの低FODMAP食が台無しです。

小麦も冷えて老化したでんぷんが消化に悪くなることは同じですが、小麦パンでも米粉パンでもおにぎりでも、芯まで加熱しなおしてから食べることが最善ではないでしょうか?