パン屋経験者でも知らない?グルテン本当の仕組みとこね具合による違いを科学的に解説

こんにちは!製パン科学研究家の"BAKE FIRST"です(・ω・)ノシ

パン生地の骨格的役割を担う「グルテン」について、その原理を徹底解説すると共に、経験者でもちょっと勘違いして解釈しがちな部分についても紹介します。

これを知ることでパン生地の中で起こっている現象をイメージしやすくなり、その時々で目の前にある生地に対してどんな扱いをすればいいのかがわかるようになります。

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 「グルテンとは、小麦粉に含まれるたんぱく質」ではありません!

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小麦粉の中には多種多様なたんぱく質が含まれていますが、その中でもとりわけ量の多い物質が二つあります。

「グルテニン」と「グリアジン」です。

  • グルテニン…弾性。ゴムボールのような弾力のあるたんぱく質。
  • グリアジン…粘性。ベタベタして伸びる性質のたんぱく質。

そして、これらに水を加えることでそれぞれが結合し、弾性と粘性を併せ持った、粘弾性の「グルテン」という物質に変わるのです。

言い換えればグルテンというのはたんぱく質の結合体であって、「グルテン」という名前のたんぱく質が小麦粉に存在しているわけではありません。

グルテニンとグリアジンがバランスよく含まれているため、小麦粉で作る生地は弾力も伸びも併せ持つのです。

ですがこの性質は小麦ならではのもので、ライ麦やオーツ麦などそのほかの穀物ではこの二つがそろっていません。

だから小麦粉以外でつくる生地は、パン生地とは質感が全然異なるのです。

力を加えることでグルテンが作られるわけではない

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「グルテニンとグリアジンに水を加えて、力を加えるほどグルテンが作られていく。力を加えなければグルテンはできない」

という認識が以前まではありましたが、どうやらそういうわけでもないようです。

正確に言うと、グルテンそのものは力を加えずとも水と混ぜた段階で形成されるそうです。

とは言えただ混ぜただけではグルテンの構造はとっても粗い網目構造です。それを引き伸ばしては畳んだり叩いたりを繰り返していくうちに、網目構造がどんどん細かくなっていくのです。

「食パンはよく捏ねてグルテンをしっかり作ること、フランスパンはちょっと抑えめにしてグルテンをあまり作らないこと」という解釈で考える人も多いですが、どちらにしても二種のたんぱく質と水が触れ合った時点でグルテンそのものは作られますので、実は間違った表現です。

捏ねて生地を鍛えることというのは、いうなればグルテンの網目構造を細かくしていく作業と言い換えることができますね。

また、あまり捏ねずに生地を長時間寝かせてグルテンを繋げる製法もありますね。

「つなげる」という表現はとても的を射ていて、グルテンは粉に水を混ぜた時点で作られ、そこで作られた無数のグルテンが寝かせている間に繋がっていくことで、寝かせる前よりもよく伸びる生地に変わるのです。

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ちなみにこういったグルテンが繋がっていく作用に欠かせないのが酸素の存在です。

グルテンと酸素の関係性についてはこちらの記事で詳しく解説していますので是非ご覧ください。

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グルテンの量が食感に与える影響

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形成されたグルテンの量が多いほど、またそのグルテンの網目構造をより強くしたものほど、パンをかじるときの「引き」が強くなります。

テレビのリポーターが焼きたてのパンを引きちぎった様子を映している映像を見ると、簡単にスパッと一刀両断ではなくクラム(パンの中身)が伸びながらも裂けていく様子が見られると思います。(裂けるチーズみたいな感じですよね)

この、ちょっと伸びる感じがあるパンを「引きの強いパン」と表現することがあります。

これは美味しい食パンの代名詞的な存在でもあるのですが、その代わり歯切れの悪さといったマイナスイメージでとらえることもできます。

パン屋さんによっては、とにかく歯切れの良さを重視してミキシングを最小限に抑えてパンを作るお店もあります。ハード系のパン作りにおいてその手法は非常に多いです。

こね具合の作り分けや見極め判断の方法に関してはこちらの記事をご覧ください。

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グルテンの網目構造を細かくするとガス保持力が高まる

グルテンの網目構造が細かい生地は、建築物で例えるなら柱と柱をつなぐ梁が多い家みたいなものです。

良く捏ねた網目の細かい生地は強い骨格でより多くのガスをキープできるため、特に上に大きく膨らませたい食パンでそのメリットを発揮できます。

そして、パン作り初心者がお店に売っているパンのようにふんわりとボリューミーな焼き上がりにならないと嘆く最初の原因の多くは、こね不足によるグルテンの網目構造の形成不十分です。

「レシピの指示どおりの捏ね時間で作っているんだけどなぁ…」

そんな風に思ったあなたにはこちらの記事が最適です。

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グルテンの弾力がパンのボリューム不足に繋がるパターン

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グルテンをとにかく緻密に形成することがボリュームアップに繋がるのかといえば、必ずしもそうではありません。

先ほど解説したように、グルテンは「弾性」と「粘性」を併せ持つ物質です。

特に、力を加えた直後は弾性が強く働きます。

そのためタンパク量の多い粉を使ってよく捏ねた生地では、成型後の生地弾力はとても大きいのです。

いわば、新品の風船のごとく膨らませるのにとても力が要るため、焼成するまでに二次発酵で十分に生地を緩ませなければいけません

ここで発酵不十分で生地の弾力が落ち着けていないと、いくらグルテン量が多いからといっても弾力に負けてあまり膨らむことができません。

また、そもそも発酵という工程を取らない、作ったらすぐに焼くスタイルのホットケーキ、スコーン、ソーダブレッドなども同様です。

発酵させないということは、生地を緩ませる時間を取らないということだから、生地作りの段階でグルテンをガッツリ形成してしまうと、これも膨らませにくい風船状態となり焼いた時の膨らみが悪くなってしまいます。

 

作りたいパンのイメージに合わせてミキシングも自在に操る

なんでもかんでもボリュームアップを目指せば良いわけではありません。

カンパーニュなど個性的なハード系では、あえて目の詰まったパンにすることで濃厚な味わいを求めたりするお店もあります。

食パンだってボリュームより歯切れの良さを意識してあまり捏ねないお店もあります(少ないですが)。

良く捏ねること、が必ずしも正解なのではなくて、まず作りたいパンをしっかり頭の中でイメージして、それが実現できるであろうミキシング具合を予想して実際に作ってみる。

その結果としてイメージ通りのものができた時が本当の正解と言えるでしょう。

そのためには、やはりグルテンの仕組みを正しく理解しておく必要があります。

この記事を読んで以前よりグルテンについての理解が深まったことでしょうから、きっと今までよりもイメージ通りのパンを再現する力が高まったはずです。 

一緒に生地マスターを目指して、今後もパン作りを楽しみながら上達していきましょう!

 

グルテンの仕組みについてわかったら、パン作りにおけるグルテンの弾力の扱い方の基本としてこちらの記事も読んでおくことをおすすめします。

paopao-bakefirst.hateblo.jp

 

2023/05/12

by BAKE FIRST(製パン科学研究家)