こんにちは!製パン科学研究家の"BAKE FIRST"です(・ω・)ノシ
「湯種パン」を作ったことがありますか?
事前に湯種を仕込むのが手間だと感じた方も多いでしょう。
しかし、湯種を仕込まずに湯種パンが作れるミックス粉があるのはご存じでしたか?
今回は「もっちり湯種パンミックス」をご紹介します。
そもそも湯種パンって何?
小麦粉を同量(またはそれ以上)の熱湯と混ぜた生地を湯種といい、これを生地に配合して作ったパンを総称して湯種パン(または湯ごねパン)といいます。
粉の主な成分はでんぷんです。でんぷんと水を合わせたものに熱を加えることで、でんぷんのα化(糊化)という現象が起こります。
(でんぷんのα化に関する詳しい解説は下記の記事を見ていただけるとわかりやすいです)
事前にα化した粉を生地に配合することで、パン全体のα化率が高まり、結果として通常よりもしっとり感が強く保湿性も高いパンとなります。
消化も良くなるため、炊いたお米のように噛めば噛むほど甘みが増すパンになります。
実際、作り立ての湯種はまさしく炊きたてごはんのような香ばしさがあります。
(焼いたら結局、普通の食パンもα化するんだから一緒じゃないの?
➡通常のパン生地はでんぷんの完全なるα化に必要十分な水分量ではないため、かなり違います!)
湯種パンでは基本的に、配合する粉のうちの数パーセントを湯種用に使います。
10%湯種と言われれば、粉10%で湯種を作り残りの90%を本捏ねで使います。
湯種につかう粉のたんぱく質は熱で壊れてしまうため、普通のパンよりもグルテンの形成量が少なくなり、ボリュームが劣ります。粉10%が湯種用なら、残りの90%しかグルテンは使えないということ。
ボリュームの劣り具合がしっとり感と合わさって、結果としてちょっと目の詰まった日本人好みのもちもち食感が出来上がります。
近年では、湯種という言葉も一般に浸透してきたのか、その美味しさをアピールするために各種大手パンメーカーの食パンでも積極的に湯種の配合を記載している様子がよく見られますね。
「もっちり湯だねパンミックス」の内容
例の商品の内容はこちらです。
これが2袋同封されているのみで、湯種のような物体はどこにも見当たりません。
湯種は自分で作れってこと?だったら意味ないじゃん!って思いきや、作り方を見ても粉を熱湯で混ぜる指示は無く、こちらで用意する材料は水とイーストだけ。
おかしいなぁ。
成分表示を確認してみると…
「湯種粉末」の文字がありました!
湯種の粉末なんて聞いたことなかったけど、今やそんなものも作れる時代なのか〜と感心しました。
しかも、ショートニングもこの粉の中に入っているようです。
粉の質感はこんな感じでした。
わかりづらいかもしれませんが、ちょっと黄色みがかっていて、触るとちょっとしっとり感があって、摘むとちょっと固まります。薄力粉みたいなイメージといいますか、強力粉のサラサラ感はありません。
それも、粉末湯種とショートニングがこの粉に含まれているのですから、納得です。
また、もち米粉と小麦たんぱくも含まれていますね。
もち米粉を入れる理由は、恐らくよりもっちり感を演出するためでしょう。また、米粉独特の味もパンにおいては大きな特徴になりますから、そういったことも考えておられるのでしょうか。
もち米粉のパン作りにおける効果についてはこちらの動画を参照ください。
小麦たんぱくは粉末グルテンのことですね。これを入れる理由は明確です。
湯種パン生地のデメリットであるボリューム低下や作業性悪化をカバーするためでしょう。
湯種は熱でグルテンが壊れると先ほどご説明しましたが、それにより湯種パン生地はべたつきやすかったり、生地がデリケートです。
なのでお店では、比較的ゆっくり丁寧に時間をかけて生地を作り上げていきますし、なるべく生地を傷めないように注意します。
その分難易度は高く、ホームベーカリーだと長時間連続で回せないものもあります。
壊れたグルテンの分だけ、外からグルテンを添加して補うことでそういったデメリットの解消を目的としているのでしょう。
実際に作ってみた!
生地感は?
生地は確かに湯種パン生地特有の、時間をかけて生地を鍛えていかないとベタ付きが取れない感じとか、それっぽいなと思える特徴はありました。
しかし、やはりご家庭でのパン作りに特化して配合されているためか、普通の湯種生地と比べたら生地はまとまりやすいし、デリケートさもそこまで無いかな、という印象でした。
(そもそも、このミックス粉を使うことが湯種何%配合と同等なのかがわからないので何ともいえないですが…)
確実に言えることとしては、粉20%:熱湯20%で作る高配合の湯種生地ではないこと。
原材料表示の中に「酵素」とありますが、食品由来の無添加製パン改良材には酵素を主成分とするものも多いので、もしかしたらそういったものを配合することで生地の作業性を改善する効果が出ているのかな?とも思いました。
※これは完全に私の主観による予測です。
また、隣にビタミンCとありますが、これはグルテンを強化し引き締める効果があるため、それも目的の一つでしょう。
焼き上がりは?
湯種パン生地は湯種に使う粉のグルテンが壊れていると先ほどご説明しましたが、この特徴が窯伸びの悪化につながります。
なので基本的には湯種パンは通常のパンに比べて窯伸びが悪い傾向になるのですが、このミックス粉で作った生地は適正まで発酵させればしっかり窯伸びしました。
窯伸びの力は、感覚的には普通の食パンと同程度あるように感じました。
湯種で壊れたグルテンを補うように粉末のグルテンが添加されていることが要因としては大きいのではないでしょうか?
また、ビタミンCでグルテンが強化されると、生地の中にガスを保持する力も高まりますので、それも絡んでいるはずです。
味と香り、食感は?
香りに関しては、普通の食パンです。ザ・普通です!(笑)
手前味噌な話で恐縮ですが、私が研究しているアルカリ製パンによる基本の食パンの方が、明らかにパンの表皮(クラスト)の香りは強かったです。(下記参照)
味に関してはほんのり甘みがあります。多分、↑のレシピよりは砂糖の量が多くなっているはずです。
食感はやはりもちもち感があり、口の中でお団子のようなまとまりがあります。アルカリ製パンによる基本の食パンは口の中でスッと溶けるような印象があったので、正反対のキャラクターに感じました。
高級食パンほどではないですがほんのり甘さがあり、もちもち食感も楽しめるため、焼かずに生で食べても美味しいと思いました。
湯種パン特有のしっとり感もちゃんとありました。
奥本製粉は湯種のパイオニア
製造元をよく見たら、見覚えのある「奥本製粉」の文字がありました。
以前、奥本製粉の業務用レトルト湯種や冷凍湯種をサンプルでいくつか試させてもらったことがありました。
そうか、あの会社だったのか…と納得。
湯種って、ご家庭で作る分にはまだ良いけど、業務で「ちゃんとしたもの」作るにはかなりの重労働と危険が伴いますからね…
(え、熱湯かけるだけじゃないの?いえいえ、本当は違うんですよ。でも長くなるのでまたの機会に詳しく解説しますね)
そこに着眼したのは鋭いですよね。手間も危険もなく湯種パンが作れるんですから。
事実、湯種食パンを製造しているパン屋さんで湯種は自家製ではなく奥本製粉から仕入れているというお店も多いそうです。
今回のパンミックスは、いちいち湯種を前日に仕込んだりする手間を省いて、さらに湯種パン特有の作業性の悪さをカバーするところにニーズを見いだしたのでしょう。
まとめ
今回ミックス粉を使ってみて、湯種パンを初心者でも扱いやすくする工夫を、材料の面から見てもとても勉強になりましたね。
最近ではカルディにも小麦グルテンの粉末が売っていたりするので、もし自家製配合で湯種パンを作る時に、窯伸びで悩んだら小麦グルテンの使用も選択肢に入れてみるのもいいかもしれませんね。
以上、「もっちり湯だねパンミックス」のご紹介でした!
※現在アマゾンでは品切れとなっております。ほかに入手できるサイトもあるようなので気になる方は検索してみてください。
2023/05/09
by BAKE FIRST(製パン科学研究家)